常備薬
何でもないときには、存在を忘れていて、
何かあると、本棚の奥から引っ張っぱり出してくる、
心の常備薬のような本があります。
遠藤周作さんのエッセイ集、『狐狸庵人生論』。※
人間の弱さや悲しさを愛おしむまなざしが、全編に貫かれています。
入退院を繰り返した遠藤さんは、「生活と人生は違う」と考えるようになり、病気という生活上の挫折により人間や人生への理解を深め、『沈黙』などの名作を生み出してゆきます。
遠藤さんは、挫折したときに、破れた自分を正当化してしまうことにも意義を認めます。
「正当化すればするほど、結局は正当化できない自分を最後には発見する」
「選ばれた人間でも優越者でもなく、本当はイヤなイヤな人間だという事実と向き合うことができる。これは人生における第二の出発点になる」
「屈辱感を味わうことも人生には大事なことだ」
こうした言葉に接すると、本来、感情には善いも悪いも無く、あらゆる感情を体験し、味わうことが人生を豊かにしてくれる、と思えてきます。
イヤな自分を見て落ち込んだとき、
「ヨシヨシ、それでいいノダ!」
と、いたずらっ子のように笑う遠藤さんが飛び出してきそうな一冊です。
※『狐狸庵人生論』(2009年・河出文庫)