柚子

冬至を迎えました。 これから少しずつ日が長くなると思うと、気持ちも浮き立ちます。柚子の実を収穫しようと木に近づくと、長く鋭いトゲに手を刺してしまいました。「桃栗三年柿八年」は、よくきくフレーズですが、これには続きがあって、「柚子は九年の花盛…

座右の銘

祖父の座右の銘、三つ。 一、毎日、少しずつ。 一、希望とともに起き、感謝をもって眠る。 一、終わりよければ、すべてよし。どれもシンプルな言葉ですが、 日々の暮らしも、人生も、なるほどそのとおり。 と、ようやく腑に落ちる年ごろとなりました。

常備薬

何でもないときには、存在を忘れていて、 何かあると、本棚の奥から引っ張っぱり出してくる、 心の常備薬のような本があります。遠藤周作さんのエッセイ集、『狐狸庵人生論』。※ 人間の弱さや悲しさを愛おしむまなざしが、全編に貫かれています。入退院を繰…

奇跡

久々に映画を見ました。重度の障がいを持つ娘と暮らす主婦。 ある日、遠く離れた実家の母親が、認知症とうつ病を発症したという知らせを受けます。娘を抱えて実家に帰ることも難しく、毎日一枚、母親に葉書を送ることにします。 葉書のコンセプトは、「くす…

青春

篠田桃紅さん、御年104歳。 現役の書家として、創作活動を続けていらっしゃいます。 「人がいれば寂しくないなんてことはありえない」 「人間っていうのは苦しむ器」 「自分の生き方は自分にしか通用しない」 テレビのインタビューに応じる凛とした御姿と、 …

住吉

住吉大社に参拝しました。かつては遣唐使も、住吉大社に詣でてから出港したそうで、航海安全や漁業守護に御神徳がある、海の神様とも言われます。日頃、海に関わって生きているという実感はありませんでしたが、宮司さんによると、海は命の根源であり、住吉…

勇気

高校生が火事の現場から8名を救出した、というニュースを見ました。彼は幼い頃から、人命を救助する戦隊物のヒーローに憧れ、救急法の勉強をしていたそうです。 また、ご近所の方々とは日頃から交流があり、救出した方の一人が、身体がご不自由であることも…

本物

本物のダイヤモンドは、白く輝かず、 味わいのある分散光を放つそうです。ふーっと息を吹きかけたとき、 イミテーションは曇るが、 本物は曇らないそうです。本物の真珠は、珠と珠を擦り合わせると ざらざらして、 イミテーションは、 つるつるするそうです。

文楽

ただの人形劇だと思っていました。ところが、生きているとしか思えない人形の表情や、哀切な太夫の語り、掻き鳴らされる三味線の音に、心を揺さぶられました。はじめは、背後の人形遣いも共に見ているのですが、次第に気配を消し、最後は人形しか目に入らな…

灯油

身体を動かすこともためらうほど、寒くなりました。ガソリンスタンドまで灯油を買いに行くと、 寒空の下、店員さんたちががんばって働いていました。お釣りをいただくときに差し出された手は、真っ黒でした。 油や煤が染み込んだ、働く手です。ストーブを炊…

夕日

何年も前のことです。締切に追われて仕事をしていたときに、同僚の女性が席に近づいてきました。 「いま、ちょっとお時間ありますか?」 「手が離せないのですが、お急ぎですか?」 「今じゃないと、だめなんです」 こうしたやりとりの後、ちょっと面倒くさ…

微笑

観心寺如意輪観音。 年に二日間、葉桜の頃に開扉され、お姿を拝むことができます。 仏さまに性別は無いそうですが、ぽってりとふくらんだ紅い唇が妖艶で、ほのかな色気さえ感じる優美なお姿に、時が経つのを忘れて見惚れてしまいます。遠目だと、唇をかすか…

雪の朝

この冬はじめての、まとまった雪となりました。昔、古文の授業で習った、『徒然草』の段を思い出しました。 雪のおもしろう降りたりし朝 人のがり言ふべきことありて文をやるとて 雪のこと何とも言はざりし返事に この雪いかが見ると一筆のたまはせぬほどの …

自分

「私」や「自分」という一人称を、どれだけ長時間使わないで会話が成立するか、というゲームをしたことがあります。 確か、1分も持たなかったと記憶しています。これまでに書いた文章を見返しても、最頻出の言葉は、やはり「私」や「自分」です。これだけ一…

勝手

ご近所で火事がありました。立ち昇る火と煙。 鳴り響くサイレン。 消防団の召集を呼びかける緊急放送。 家々の戸口から出てくる人びと。騒然とするなか、わたしは、かばんに財布とハンカチを入れ、ダウンコートを引っ掛け、いつでも避難できる体制を整え、玄…

物語

ギャッベというペルシャの絨毯を、部屋に敷いています。 あたたかみのある、陽だまりのような絨毯です。 遊牧民たちがギャッベを抱えて旅をし、 季節ごとに住まいを変えていく。 彼らはギャッベに身を横たえて、 満天の星空を眺めることもあるでしょう。店主…

譲り合い

地下鉄の車内。ひとりの老婦人が乗車し、優先席の前に立たれました。 座っていたご高齢の女性が、 「どうぞ、どうぞ」 と、老婦人に席を譲ろうとしました。 「いえいえ、あなたも立っているのは大変よ」 「わたしはまだまだ元気ですから大丈夫」 結局、押し…

満足

時の太閤がご利益に満足したという神社。本殿の前に積まれた護摩木の前に貼り紙。 今年、満足したことがある方は、その内容を とくに無かった方は、願いごとを書いてください「とくに満足することが無かった人」に分類されるのを潔しとせず、満足した場面を…

日めくり

今年も11月が今日で終わります。朝起きて一番にすることは、日めくりカレンダー※を一枚めくること。 日々の言葉と、かわいらしい仏さまの絵が描かれています。本日、30日の言葉。 あわてても いきつくところは みな同じ のんびり ゆこう右手をついて、お昼寝…

参道

この道を歩くと 時空を超える 生死の境目も 曖昧になるさまざまな時代に生きた 数十万の魂が眠る場所戦いに勝利した者も 負けた者も 敵も 味方も いっさいが関係なくなる世界わたしの先祖 あるいは 先祖の知り合いが この中のどこかに 眠っているはずわたし…

理想の人

『ばっちゃん』を見ていて、ある女性を思い出しました。佐藤初女さん。 人生の苦悩を抱えた人々を自宅に受け入れ、手料理でもてなし、話に耳を傾けてこられた方でした。夜中の電話にも対応できるように、枕元に電話器を置いて寝る日々。 会って話を聴くまで…

ばっちゃん

ある番組※で、「ばっちゃん」と呼ばれるボランティアの保護司の特集をしていました。 ばっちゃんは、30年以上、居場所の無い少年少女たちを自宅アパートに受け入れ、ごはんを食べさせ、話を聴きます。「おかえり、おかえり」 「えらかった、えらかった」 ば…

問題

問題を明らかに見ることができれば、問題は解決する。 あらかじめ問題の中に回答もセットされているのだから。 このような話をきいたことがあります。確かに、何か具合の悪いことが起こってくると、他人や環境のせいにしてしまったり、嫌なことは早く忘れよ…

聴くこと

聴くことは難しい。話を聴いているつもりが、相手の言葉尻をとらえて、いつの間にか自分の話へと誘導することが多い。 途中で、しまった、と気付くこともあるが、いったん自分の話を始めると、なかなか終わらせることができない。話を十分に聴いてもらえると…

遊園地

友人が読んだ本に書いてあったそうです。人生は遊園地の中で遊ぶようなもの。 あるときはジェットコースター。 あるときはメリーゴーランド。 お化け屋敷のこともある。ハラハラもドキドキも、守られた遊園地の中の出来事だから、思い切り楽しめば良いと。気…

選択

進路の選択に迷ったとき、友人からいただいた言葉です。 最善の道を選ぼうとすることも大事だけど、 選んだ道を最善にすることも大事だ。後になって、「もっと良い選択があったのではないか」と後悔することを恐れて、身動きが取れなくなることがあります。 …

荷物

四国八十八箇所霊場を歩いたときのことです。毎日20〜30kmも歩くと、荷物が肩に食い込んできます。 足も痛んできて歩くのがつらくなると、仲間が荷物の一部をかついでくれました。 荷物が軽くなると歩くのが楽になりました。 でも、荷物は無くなったのではな…

初冬の朝

二十歳の頃に出会った詩です。※ 生きてゆく力がなくなるとき 死のうと思う日はないが 生きてゆく力がなくなることがある そんなときお寺を訪ね わたしはひとり 仏陀の前に坐ってくる 力わき明日を思うこころが 出てくるまで坐ってくるたしかに、死にたいとま…