勝手
ご近所で火事がありました。
立ち昇る火と煙。
鳴り響くサイレン。
消防団の召集を呼びかける緊急放送。
家々の戸口から出てくる人びと。
騒然とするなか、わたしは、かばんに財布とハンカチを入れ、ダウンコートを引っ掛け、いつでも避難できる体制を整え、玄関から火の手があがる方向を眺めていました。
数十分経って鎮火し、何ごともなかったように、もとの闇が戻りました。
やれやれ、無事でよかった。
それが、心の第一声でした。
主語は「私が」です。
バケツ一杯の水を持って、駆けつけることもできたし、当事者や消防団の無事を祈ることもできました。
それでも、そのときは、自分を守ることしか考えませんでした。加えて、高みの見物です。
いま、冷静になってみてはじめて、身勝手な心に気がつきました。