理想の人
『ばっちゃん』を見ていて、ある女性を思い出しました。
佐藤初女さん。
人生の苦悩を抱えた人々を自宅に受け入れ、手料理でもてなし、話に耳を傾けてこられた方でした。
夜中の電話にも対応できるように、枕元に電話器を置いて寝る日々。
会って話を聴くまでは、相手の素性や事情をいっさい聞かないことにしていたそうです。
佐藤さんの手料理、中でもおむすびを食べた人の多くは、心を癒され、生きる力をもらって帰ったそうです。
食べることはストレートに身体全体に伝わるので、食べながら、おいしい、と感じたときに心の扉が開くといいます。
食べる人のことを想う。
食材をいのちとして考える。
お米の一粒一粒が呼吸できるように丹念に結ぶ。
タオルにやさしく包む。
人は、何でもないことを大きく感じてくれる場合がある。それが転機のきっかけになることもあるから、小さなことを大事にしたいと話されていました※。
一度だけ、佐藤さんにお会いしたことがあります。
講演のあと、本にサインをしてくださるというので、長い列に並びました。
ようやく順番がまわってくると、「人の言葉は芳しく」という言葉を、一画一画、それは丁寧に書いてくださいました。
早く終わらせよう、効率よくこなそう、という姿勢は皆無で、その時間は、わたし一人だけに向き合ってくださった時間だと、はっきり感じることができました。
佐藤さんが感銘した教会の神父さんの御言葉です。
奉仕のない人生は意味がない
奉仕には犠牲がともなう
犠牲がともなわないものはまことの奉仕ではない
やれることをやっているのではいけない。
自分に何ができるかを考えたときに、
わたしにはこころがある。
こころは尽きることなく、与えたいだけ与えられる。
わたしは、こころでいきましょう。
と、大きな衝撃をもって気づいたことが、活動の原点だそうです。
目の前のひとりを大切にすることを、身を持って教えてくださった佐藤さん。
故人となられましたが、いつまでも、わたしの理想の女性です。
※こころの時代〜宗教・人生〜アーカイブス「心をわかちあう」(NHKEテレ 2016年3月12日放映)